岩崎鬼剣舞

いわさきおにけんばい

岩手県北上市

岩手県に伝わる国指定重要無形文化財「岩崎鬼剣舞」。その発祥については様々な節があるが、8世紀初頭に、修験道の祖・役行者(えんのぎょうじゃ)が念仏を唱えながら踊ったことが始まりとも、9世紀初頭に、法印・善行院(ぜんぎょういん)が悪魔退散の念仏踊りとして羽黒山から持ち伝えたとも言われている。今回は、岩手県北上市で剣舞の伝承に努める「岩崎鬼剣舞保存会」の八重樫俊一(やえがししゅんいち)さんに、岩崎鬼剣舞の魅力や国内外での活動について伺った。

岩崎鬼剣舞の一年

岩崎鬼剣舞保存会会長の八重樫俊一さん

-「岩崎鬼剣舞」はいつ観られるものでしょうか?

八重樫さん:年間を通じて60から70回程の公演があります。大きな行事として、先ずは2月2日の節分祭。地元に「鬼の館」という鬼をテーマにした博物館があって、そこで必ず節分祭をやります。そして4月5月の「北上展勝地さくらまつり」。さらに、7月8月の「夏油温泉かがり火公演」と8月の「北上・みちのく芸能まつり」でも公演しています。「北上・みちのく芸能祭り」は、郷土芸能関係者が総出の大きなお祭りですけど、剣舞だけでも、北上市の13団体が全て参加するんですよ。幼稚園とか高校のクラブとか集まって大体300人くらい。また、地元の岩崎二前神社(いわさきふたまえじんじゃ)で毎年10月29日に奉納しています。行事以外ですと、週末は近隣のホテルなど、どこかしらで公演していますね。

-剣舞の内容はそれぞれで変わるものなのでしょうか?

そうですね。岩鬼剣舞の踊り手は8人が基本でして、演目は18演目ほどあり、一般的には12演目が踊られます。踊りの多くは、念仏を唱えながら激しい動作で輪踊りを展開するのです。「三人加護」のように祈祷性の強い踊りや、「刀剣舞の狂い」のようにアクロバティックな武技を思わせるもの、「膳舞」や「宙返り」のように曲芸の要素も入った踊りもあります。しかし基本的には神社に奉納するための、悪霊退散の踊りです。

鬼剣舞の継承者たち

ポーラ伝統文化振興財団40周年記念展「無形にふれる」レセプションイベントにて

-小中学校の運動会でも演じられると聞きましたが、鬼剣舞の継承に関してどのような状況でしょうか?

八重樫さん:私もそうですが、土地の子供たちは物心ついた時から鬼剣舞を見聞きしています。幼稚園や小学校では、まあ、強制的にやらされます。だからこの地域の子どもたちは誰でもが踊れるのです(笑)。でも、みんながずっと続けるわけではなく、大人まで続けられ、さらに継承者となる人はなかなかいません。ここ何年かは後継者が続いてくれていますが、いまの子どもたちがどうなるかちょっと心配なところもあります。

 -後継者を増やすための活動はされていますか?

八重樫さん:それはもう声がけしかありません。岩崎鬼剣舞をやっている高校のクラブ活動があって、ほぼ毎年全国優勝しています。そこで私たちが指導をしていいて、高校出たら保存会に入ってくださいね、とお声がけしています。入ってくれるかはわかりません。去年は入ってくれて、即戦力になっています(笑)。初めての人だと、一人前になるまで5、6年かかるのですが、ずっと続けてきた若者たちは、すんなり芸に入ってきてくれます。また北上市には13団体あるので、若者たちは引っ張り合いになっています(笑)。やはり、「子供・若者は地域の宝なんだなぁ」と、そういったところからも考えますね。だからこそ、どこの団体の子供出会っても、若者であっても、周りの大人たちは、大切に育てています。それは、鬼剣舞に関することだけではなくて、日常の様々な面で声がけをしたり、はげましあったり...。都会とは違うそういったところも、芸を継承するための要因なのだと思っています。

ファンを増やすための活動

-ファンを増やすためにどのような活動をされていますか?

八重樫さん:お蔭さまで、鬼剣舞を習いたいという団体が全国から来るので、指導しています。おもしろいことに、異なる分野の芸能の方が習いに来て下さって、新潟からは「鼓動」という太鼓集団、秋田からは「劇団わらび座」などから来ています。あとは全国から様々な人が集まって下さるほか、京都の保存会も歴史が古くて、もう3、40年になります。国外ですと、シンガポールやオーストラリアのシドニーから、団体でやってきます。シドニーの団体はもともと和太鼓集団なのですが、鬼剣舞をどこかで聞いて、ぜひ習いたい、舞台で踊りたい、と言って来ました。今年も2回ほど教えます。そしてシンガポールからは毎年6月に習いに来ます。地元に来て教えてください、という要望もあるくらい、熱心に習ってくれます。

-剣舞の魅力に惹かれて習いに来る方が国内外にたくさんいるのですね。海外の方に教えるには、言葉の壁がありませんか?

八重樫さん:日本語が上手な人もいるので心配ありません。そもそも言葉を教えるのではなくて、踊りを教えるのだから、言葉が通じなくてもなんとなく出来ちゃいます(笑)。言葉で理解して舞っているのではなく、心で舞っているので。

ポーラ伝統文化振興財団について

-今回のポーラ伝統文化振興財団40周年記念展「無形にふれる」に設けられた「岩崎鬼剣舞」コーナーをご覧になって如何ですか?

八重樫さん:最初はなんで鬼剣舞を展覧会で取り上げるのか、全くわかりませんでした。これまで、鬼剣舞を踊って欲しいという依頼は良くあったのですが、このような立派な会場で作品として紹介される経験がなかったのです。今回、展示作品として取り上げて頂き、大変ありがたいと思っています。

大地を踏みしめる「反閇(へんばい)」という所作がなまって「けんばい」になったという

インタビューを終えて

ポーラ伝統文化振興財団40周年記念展「無形にふれる」では、コマ撮りした写真を並べつつ「岩崎鬼剣舞」の動きを解説したり、勇壮に跳躍する鬼剣舞を民俗芸能研究者と学芸員の副音声とともにお楽しみ頂ける動画も展示してあったりと、「岩崎鬼剣舞」の情熱が観覧者に伝わってくるよう様々な工夫が凝らしてあった。

「岩崎鬼剣舞」は発祥から1300年の長い伝統に支えられて、そして今なお、地元の日常に根ざし受け継がれています。地域で誇りを持って継承されているこの郷土芸能が、時代を超え、地域を超え、そして、国を超え、より多くの方に伝えられることを願ってやみません。